七ぶらシネマ 第11回
伝記映画の対象となるのは、過去の人、それもある程度評価の定まっ た人物というのが通り相場。それでも、例外はあるもので、現役か、そ れにごく近い人物が取り上げられることもある。特に今年は、その傾向 が目立つ。 今年度のアカデミー賞ノミネート作品「シャイン」は、現役バリバリ のピアニストを描いているし、名指しこそしていないが「グレイス・オ ブ・マイハート」は、シンガー・ソング・ライターの走りといえるキャ ロル・キングの生涯をなぞっている。 絵の方では、かつてアンチ・ディズニーの急先鋒として話題となった アニメ「フリッツ・ザ・キャット」の原作者ロバート・クラムを描いた 「クラム」があり、そして今回取り上げるジャン・ミシェル「バスキア」。 デビット・ボウイがアンディ・ウォーホルにふんし、画商の役にデニ ス・ポッパー。さらに、クリストファ・ウォーケンと、なつかしやティ ータム・オニールという布陣は、絵画なんか関係ないよ、という人でも 興味津々だろう。ボウイなど二枚目すぎて、お世辞にも似ているとはい えないが、ウォーホル自身が使用していたというカツラをかぶって、美 術界の超名士だった人物を喜々として演じている。 といっても、この作品の見所は八〇年代のニューヨークのアート・シー ンを疾風のごとく駆け抜けた伝説の天才画家という題材に尽きる。 第二時大戦後、世界の美術界の中心地となったニューヨーク。国内外 から多くの作家を集め、わが国からも、画壇の枠を外れてしまった若い 有能な画家を受け入れ成功させるなど、開放的なイメージに包まれてい た、八〇年代当初までは黒人抜きの社会だった。この映画も、黒人を主 人公にしている作品にしては珍しく、ほとんど白人しか出てこない。 映画的な潤色はほどこしてあるものの、バスキアの、若くして認めら れながらドラッグが原因で二十七歳の生涯を終えてしまうスタイリッシ ュな生き方を見事に描いている。 バスキアが身を置いた場はシリアス・アートの世界だったが、その表 現の仕方、その精神からいっても、ポピュラー・カルチャーと紙一重の 所にいたといってよい。キングとクラムは当然そうだし、アメリカのポ ピュラー・カルチャーとその周辺には、我が国では「トキワ荘の青春」 の人たちを最後に途絶えてしまった、映画の素材となる生き方をする人々 が、まだまだいるということになる。
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