七ぶらシネマ 第15回

 宮崎駿の新作「もののけ姫」は、彼の監督作品としては「紅の豚」以 来、五年ぶりである。 この五年の間に、彼はアニメ界のみならず日本映画を代表する巨匠に なった。それを反映してか、巨額な製作費と巨大な労力が投じられてい て、最近の日本映画ではめったに見られなくなった風格のある作品に仕 上がっている。冒頭のタタリ神のシーンの細かく、それでいてダイナミッ クな描写など、個々のシーンでは日本のアニメ史上でも特筆すべき出来 上りを示している。 無国籍ファンタジーが多い宮崎作品(とはいっても、最高傑作は武蔵 野の丘陵を縦横に飛び回る「となりのトトロ」であることは言うまでも ない)にはめずらしく中世日本を舞台としていて、日本各地へのロケハ ンを元にした多くの印象深い光景を展開しているが、一番印象に残った のは、ローマの北にある城塞都市がヒントとなっているタタラ場の光景 だった。 そこで思い出したのが、彼が「紅の豚」を携えて登場した九三年のフ ランスのアヌシー国際アニメーション映画祭でのこと。その時のパーテ ィで、映画祭のあとイタリアへロケハンに行く、と聞いた。 タタラ場の光景は、その時のロケハンの成果であろうが、この年のア ヌシー映画祭そのものは、まさに宮崎のための祭だった。 彼がこの種の映画祭に出席したのは、多分、それが初めてだっただろ うが、審査対象の「紅の豚」以外にも、「トトロ」と「天空の城ラピュ タ」の上映も予定されていた。<新人>としては破格の扱いだが、意外 なこととはいえない。九一年の同映画祭では「火垂るの墓」が上映され ていて、その時、多くの人から「なぜ、宮崎作品が出てこないのか」と 質問された経験をもっている。その時点で、既にアニメ関係者の間では、 大きな期待を持たれていたのだ。 「紅の豚」は長編部門のグランプリを獲得し、「トトロ」は好評につき、 急拠、追加上映を決定。そして「ラピュタ」の上映は、映画祭のクライ マックスのひとつとなった。 映画祭のメーン会場は、湖畔の広大な芝生の公園に面しているが、そ の芝生の上に作られた巨大スクリーンで上映された。町の人もご覧下さ いということで、四千人は下らない人が集まった。ほとんど帰る人のい なかった深夜十二時すぎの終映時(というのも6月始めのアヌシーでは 暗くなるのは十時近くなので)に、観客の大喝采で迎えられた宮崎の 声が、ふるえていたのはいうまでもない。
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