七ぶらシネマ 第18回
この連載の二回目に静岡オリオン座は東京の超一流映画館と比べても 決してひけをとらないと書いたが、かつて静岡には、このオリオン座よ り数段すばらしい映画館があった。 ひとつのビルに映画館がただひとつ。当然、全体がゆったりとした造 りになっていて、特に、正面の壁全体にまでスクリーンを拡大して上映 した「アラモ」のすごさは今でも目に浮かぶ(朝の十時から午後七時ま で三回繰返し見ていた記憶がある)。で、その名前は、やはりオリオン 座! 本業がコレクションを旨とする図書館屋だし、こと映画に関しては、 本業に輪をかけて物持ちが良いので、それなりに数多くの映画について の資料を抱え込んでいる。その中で、もっとも愛着のあるもののひとつ がORION・896と銘打たれている四ページの資料で、一九七一年 の秋に出されたもの。 静岡市七間町の、今はテレビ局の社屋となっている場所(ということ は、筆者の自宅のお隣さん!)にあった旧オリオン座の取り壊しに際し 作られた、一九五二年十二月の開場からの十九年間に上映された全映画 のリストである。 最初の作品はゲーリー・クーパーの「ダラス」。今のオリオン座でも 踏襲されている大作アクション映画の上映という性格にぴったりの作品 である。 筆者はといえば、赤ん坊の頃のことであり、この作品、ここでは見て いない。中学生の時のリバイバル公開をカブキ座で見た。東京の歌舞伎 座は日本を代表する劇場だが、このカタカナ書きのカブキ座は、筆者の 年頃の静岡の少年にとっては、その名前は言うことさえはばかれるもの だった。映画館になる前、ストリップの劇場だったからだ。伊勢丹(そ の頃は田中屋といった)の筋向い、今はボーリング場とゲーム・センター となっているところの両替町側にあった。 オリオン座に話を戻せば(ここも取り壊しはボーリング場に建て替え るためだった)、ここに定期的にかようようになったのは「ローマオリ ンピック」と「地球の危機」の二本立てから。この二本には格別の感慨 はないが、その時見た「ナバロンの要塞」の予告編が決定的だった。そ の巨大な大砲の図にあぜんとし、引続き見た本編のスケールの大きさ、 スリリングなストーリー展開は、それまでのチャンバラ映画少年を洋画 ファンに変身させた。「史上最大の作戦」「大脱走」「西部開拓史」、 そして、テレビ作品の映画化、ナポレオン・ソロ「0011地球を盗む 男」を併映とした「2001年宇宙の旅」。 そういえば、映画全盛期を象徴する、この豪華な映画館のロビーに置 かれたテレビで、大村昆の「頓間天狗」に見入ってしまった記憶がある。
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