七ぶらシネマ第25回

 十八日から新宿の三越美術館で「人形の魔術師・川本喜八郎展」が開 催されている。テレビの「三国志」「平家物語」で人形製作を一手に引 き受け、人形作家として脚光を浴びている川本の、集大成ともいうべき 展覧会である。彼が造形する人形は上品で、気品があり、「三国志」の 諸葛孔明ともなれば、そのうえに力強さ、聡明さも持ち合わせている。 動かさずとも充分に魅力的で、その点だけで取り上げても、世界でも屈 指の人形作家といえる。  だが、川本の人形たちは動きを得ることによって一層の輝きを増す。 それは、操演の人たちによるテレビでも魅力の一端はうかがえるが、川 本自らがすべての動きをコントロールできるアニメーションにおいて最 大限の効果を発揮する。  人形作家としての彼の道筋を決めたのは、チェコの巨匠イルジー・ト ルンカの人形アニメーション作品に出会ったことだった。トルンカに手 紙を出し、チェコへ留学することになるが、その時までに、彼はすでに 多くの人形アニメーションの製作に携わっていて、日本では一流の域に 達していた。トルンカ作品に接した時の衝撃の大きさが解ろうというも のである。 帰国後、自主製作を開始する。本来の彼はモダニストなのだが、作り 始めたのは、我が国の古典に題材を求めたものだった。壬生狂言を元と した「花折り」、能の世界を、そのオリジナルが持つ以上の恐るべき完 成度を持って再構築した「道成寺」、それを更につき進めた「火宅」。 トルンカが「チェコの四季」「チェコの古代伝説」で境地を開いたのと 軌を一にしているといえる。  これらの作品は、国際映画祭でグランプリを受けたり、アニメ史上の 五十傑のひとつに選ばれるなどしている。トルンカの直系とも言うべき チェコのシュワンクマイヤーたちが、グロテクスな路線を突っ走ってい るのとは対照的で、川本こそがトルンカの真の弟子というべきであろう。  その意味でも、静岡で川本作品の上映会を開催したおり、チェコスロ バキア(当時)では人形が不足しており、それで日本から手作りの人形 を贈ったというニュースがあり、それを彼に伝えた時のことを思い起こ す。「そうなんでかねえ」と、困惑の色を隠せなかった。  確かに、人形の国チェコでも、その名に恥じないような名品は不足気 味である。
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